魔法使いの約束/2周年ストーリー感想

自分用のてがろぐに初読時の感想がちょこちょこあったので、読み直しながら公開できる程度に文章を直してアップしたものその2です。

導入

導入の時点で『記憶』がテーマのひとつだろうとわかりやすい。流星と重ねるのはなんだろうと思ったら魔法使いの師弟の『系譜の流星雨』、なるほど!

「魔法使いは長い時間を生きます。」
「師の教えの中で、師の見ていた景色について教わることがありますが……。」
「すでに風化してしまって、弟子が見ることができないことが、多々あります。」
「ですが、天体現象は、頻繁に変わることが少ないため、師弟の絆になぞらえられるのです。」

ミスラ王国

ここのくだりすごく楽しかった!みんなかわいい。

「僕は税金になってあげる。
国民を苦しめるのは税金だって聞いたことがある。」

このセリフからしてオーエンは納税したことないんだ!?よかった…ネコチャンに税金なんて重いものを背負わせたくなかったから…。
オーエンは人間というよりもネコチャンですし、ネコチャンに教育・勤労・納税は重すぎる。そんなものは人間が背負います。

オーエンとの目玉・職業のお揃いをあっさり否定するカインに笑ってしまいました。ミスラからカインへの認識がやたら『目玉』なの、友達の友達(?)という距離感で良さがあります。
って、カインくんの「だめだぞ、オーエン。」と、それを食らって(?)その場から消えるオーエンなに!!!??!?!?ときめきすぎちゃったのかな?わかる…急にずるいよね…。

一周年でも思いましたが、時々「もしかして私とミスラって付き合ってる…!?」と思ってしまうセリフが急にはさまってくるのなに!?付き合っているんですか?

会議もろもろ

「貴重な意見をありがとう。
おかげで、皆も視野が広がったと思う。」
「次はもっと穏やかに発言してみてくれ。
その方が皆もおまえの意見を聞き入れやすい。
ここに敵はいないのだから。」

インターネットの場に貼っておいたほうがいい言葉だこれ…。

永遠の愛の誓いとは

「頭で守れなかったと思っていても、心が守れたと思えば、契約は永劫に続く。」
「結婚の契りを交わし、永遠の愛を誓い、伴侶が死んでも、魔力を失わなかった魔法使いを幾人か見た。」
「中には、その後で他の者と結婚の誓いを交わしても、なお、魔力を失わなかったものもいた。」
「愛や、契約とは、そのようなものなのじゃろう。」

愛と契約に関する言及、納得しかない。永遠の愛って二度と会えなくても別の人と生きていても失われない、そういうものこそだと思うんですよ…。いつも愛の話でそういうろくろをまわしている者なので、嬉しくなってしまいました。まほやくの永遠の愛の判定、好きすぎる。

カインとオーエン

カップケーキのくだり、カインがしきりにオーエンに「どうして」と尋ねているのが、一周年ストーリーを経ての変化を実感できておお…となりました。続けて読むとカインくんの態度の変化というか、一周年ストーリーのおそらくテーマでもあった『相手のことを決めつけず、知りたいと思い、そう伝えるのは勇気がいるけれど必要なこと』がオーエンに向けられるようになったことがすごくわかりやすいし、オーエンもわかりやすく戸惑っている…。

「何かを選ぶことだって嫌いじゃないだろ?」

これ、オーエンの場の主導権を握りたがる性格のことかなと思うのですが、それを『何かを選ぶことが好き』なのでは?と考えるカインの感覚が新鮮で、彼なりにオーエンのことを考えて理解しようとしている心が伝わってきて…一周年ストーリーの鼓動がすごい。
対するオーエンの反応も、自分自身に迫られたから思わず逃げ出したんだろうとわかるもので…。このふたりといえば相互不理解ですけれど、カインくんはそれをなんとかしようと動き始めていることが伝わってきて心が熱くなりました。好きだ…。

北の魔法使い

ブラッドリーが北の魔法使いはうぶだと言っていたけれど、オーエンやミスラを見ていると人里の温もりを知って山に戻れなくなった生きものを見ているような気持ちになります。人よりも動物に近いけれど、やっぱり人(魔法使い)だから他人から離れられない。そういう切なさがあると思う。

「俺たちは何かを手に入れる時は、奪ったもんか、拾ったもんがいいんだ。」
「気が触れるほど欲しかったものだって、ほどこされた瞬間に、生涯、受け取れなくなっちまうからな。」

き、き、北の国~~~!!!!!
ムルの「ある人の愚かさは、ある人の高潔さ!」もよかった。自分は弱い生き方しかできないからこそ、北の魔法使いの矜持ある生き方に憧れを覚えている者なので…。
しかし結局ブラッドリーをダシにカップケーキも食べて、カインにも甘えたオーエンには笑ってしまいました。したたか。

旅行準備

ファウスト周辺

東の国のやりとりかわいいし、思い立ったら即確認に来るレノックスもかわいいし、ファウストとのことを『よくあること』と表現するフィガロは諦めたふりが上手くてずるくてかわいい。
『師弟』がテーマのひとつならそりゃここの話もしますよね。

クロエとラスティカ

「……もっと、もっと、一緒にいたら、また言葉にしなくたって、わかるようになるのかな……。」
「それとも、言葉があるうちは、死ぬまでずっと不安になるのかな。」

言葉を交わせることを不安の種のように表現するの、ホワイトの死で鏡から他人になり、お互いを伺うようになってしまった双子の話を先に聞いたばかりだったので余計にギュッとなりました。『言葉にしなくてもわかる』というほどの他人との結びつきって、まほやくの世界観だと存在しないかよほど遠くにあるものじゃないかなあ。『傷付いても言葉を尽くそう』というスタンスだと感じているので。

アーサーとミスラ

「おまえのように、オズ様に一目おかれてみたい。」
「あなたはオズの何なんです?」

オズに一目置かれるミスラの強さに憧れるアーサーかわいすぎるし、ミスラももっとオズに自分を見てほしいのかわいすぎる…。さすが世界最強のオズ様はおモテになる…。

ブラッドリーとリケとネロ

ここあまりに良くてスクショを貼ってしまうのですが、『ひとりぼっち』に矜持を見出す北の魔法使いの生き方と、そういう生き方をしながらも死後に残るものがあればと思ってしまう心。
やっぱりまほやくと都志見先生の『孤独』の描き方、繊細で透明で鋭くて美しくて苦しくて、心に刺さってやみません。一周年ストーリーのムルのセリフと同じく、この物語は私のための物語だと感じる瞬間でした。感情がぎゅっとなって、でも自分の言葉にできない気持ちも、この作品はわかってくれるんじゃないかと安心するような…。魔法使いたちの対話を見守ることで、私自身はこの作品と対話しているような感触といえばいいのでしょうか。
私はまほやく以外の都志見先生を存じ上げないのですが、本当にものすごく力のある言葉と物語を紡ぐ方だなあ…と怖いくらいです。

北の魔法使いでありながら積極的に他人と関わり、身体に様々な傷を背負って生きているブラッドリーすら自身を死後背負ってくれる相手のことを諦めそうになっていることが、この問題の難易度への説得力として重い。

アーサーとカイン/オズとミスラ/ミチルとブラッドリー

オズ様がモテるばかりにカインやルチルミチル兄弟を巻き込んであちこちに飛び火している…。

カインがアーサーのオズへの信頼に、アーサーがカインのオーエンへの信頼に忠告するの、主従の絆がまぶしいような不穏の種のような…どっち?どっちだ?
私は前の記事でも書いたようにオーエンとアーサーがいつか爆発しそうで怖いと身構えているので、ヒェッとなってしまいました。なぜならオズもオーエンも自らの矜持のためなら『やるだろう』と思うので。
それにしてもカインとアーサーのただ心配するだけではなくお互いを信頼しての尊重、本当に美しい。

オズとミスラのバトルを止める役として急に名前を出されるオーエン、ちょっと不憫で笑ってしまった。フィジカルならオーエン、頭脳で小細工ならブラッドリーやフィガロという分類だったのも面白くて…。
いや~、でも双子でも止められない最強vsNo.2のバトルを止める役として真っ先に名前が挙げられるの、オーエンのオタクとして誇らしいですよ!実際は嬉々として場を混乱させに参戦しましたけれど!オーエンはそうでないと!!
スノウの血の気の多い対応も最高でした!北の魔法使いはこうでなくちゃ!!

ミチルの「助けて!」に応えてくれるブラッドリーが良かった。一周年ストーリーでも咄嗟にチレッタに助けを求めたミチルを実際に助けてくれたのはブラッドリーだったの、めちゃくちゃ好きなので…。
ミチルがブラッドリーのアウトローな強さへほのかな憧れを隠せないの、正直に申し上げて燃えと萌えというやつです。このふたりもっと見たい…もっと…。

ボルダ島

カインとオーエン

カインがオーエンの表情や視線を観察するようになったの、もちろんデフォルトで見える相手がオーエンしかいないからというのもあるだろうけれど、やっぱり一周年ストーリーの鼓動を感じます。

「仕方ないだろ。おまえしか見えないんだから。」

言い回し!!!カインくんは特別でもないのにこういうこと言う!!!!!

ルチルとフィガロ

「フィガロ先生のエネルギーのある400年はきっと、これからですよ。」
「…………。」
「そうだね。」
「まだまだ、これからさ。」

良…。一周年ストーリーのふたりのやり取りも好きでしたけれどここも好きです。
最後の最後に噴火する人生、きっと美しいと思う。でも静かに役目を終える火山も美しいだろうし、フィガロはなにを選ぶだろう。

リケとミチル

こわい!こわいけれど、リケの危うさは彼自身に責任を求めるにはまだ早すぎるし、そのリケにどうして約束できないか懸命に説明しようとするミチルを見て、リケにミチルがいてよかったなって…。ヒースクリフとシノが仲裁に入ってくれるのも適役で、『優しくされたい』『優しくしようとした』という仲違いの理由というか芯にあったものの確認ができたこともよかった。これ今回色々なところにあったように思います。

オーエンとカイン

ここめちゃめちゃかわいくてお気に入りのところです。かわいい。

カインがオーエンの嘘を見抜いたり、彼の本心に近付いてくるようになったから、今度はオーエンのほうが構わなくなった…のかな?彼は自身の本心を暴かれることは大の苦手でしょうから。それにカインのために祈ってからの自分自身の変化に戸惑っているようにも思えます。ひとりごとのようにつぶやいた「……北の国に帰りたい。」には不変への望郷の念が込められている。
カインのほうもオーエンを理解しているという確信には程遠いけれど、『彼のことを見誤らず知りたい』という一心で諦めずに追っている印象。ほんっとうに誠実な人だ…。
ごはんのお誘い、一周年ストーリーに続いて二回目だね…。

「……行くなよ。」
「話をしよう。」

「どうして、忘れてばかりなんだ?」
「そっちこそ、どうして?」
「え?」
「どうして、思い出すの?」

一周年ストーリーが…ここに生きてる…。
こ、言葉にならない…。なんだこの、この、遠いのにお互いを見ている距離感…。
このあとのやりとりも含めて、本当に言葉にならない感情が渦巻いていて苦しい。このふたりの少し近づいて離れて埋まらない距離、永遠にその過程を見つめさせてほしい。

ファウストとフィガロ

フィガロにまだ「あなたのことを知りたいんだ。……教えてくれないか。」と言えるファウストすごすぎる。どれだけ経っても変わらず、他者への情が強く勇気のある人なのだと感じます。
お互いに捨てられたと思って生きてきたのはもどかしいけれど、ここでそれを確認できたことはふたりの再生のはじまりなのかもしれない。

色んな従者

カインとレノックス、シノにヒースクリフの話を聞くミチルと、色々な従者たちの切実な話が語られたけれど、シノのそれが先のふたりの言葉を聞いたあとだと幼くて、でもわかりやすく真っすぐで、スーッと心に入ってくるようでした。
それから話のあとのミチルの「(ボクは)どんな大人になるんだろ」、大大大好きなやつだったので喜んでしまいました。少年性が!大好き!!

アーサーとオズ

「ここに絆があるのならば、どうか……。
どうか、その絆に名前をください。」
「おまえのような者は、私の生涯に、一度もいたことがない。」

オズとアーサーの絆の名前、私のような読者は父子、家族と当然のように当てはめていたけれど、ふたりにとってはそうではなかったし、だからアーサーはあんなに不安そうだったんだと気付かされて苦しくなりました。強い絆のふたり…。オズの回答にはそれが!唯一無二ってことです!って大声を張り上げたいんですけど!?

ファウストとレノックス

「自分の死を前にして……。
継承したいものも、継承させたいものもありません。」
「強がりでもなんでもなく、自分が消えた後に残る繋がりに何の関心もないんです。」
「あとも、先もなく、この世に生きる俺しかいない。」

『継承させたい・したいものがある』師弟関係の話が前提だと思っていたので、ここでレノックスから全く別の価値観も出てくることに素直にものすごく感心してしまいました。
そりゃ21人もいれば違う考え方もあるはずで…でもそれを書けることがすごいな!?

オーエンと色んなしがらみ

「僕は誰にも何も教えないし、誰にも何も教わらない。」
「僕だけで完結して生きていく。」

クロエが作ってくれた帽子を落とさないようにおさえながら戦って、アーサーにとどめを刺そうとしたときに流星を見てカインの話がよぎって躊躇って、自分だけで完結していたいのについカインに魔法の心得を伝えてしまった…オーエン…。
どれだけ無いことのように扱っても、カインやクロエとの繋がりはもう生まれていて、それはオーエンの自由を縛っていく。もうとっくに不変じゃない。それでも必死に抵抗して拒絶するオーエンが痛々しくて誇り高くて大好き。

最後に

いや~一周年ストーリーに続き、おもしろかったです…。感服ってこういう状態のことを言うのだろうと思います。

ところでオーエンの二周年カードに描かれているトリカブトの逸話を調べてオーエンすぎてびっくりしたのですが、さすがにここまで一致して偶然はないでしょうから、キャラクターデザイン段階からモチーフのひとつなんだろうな…。面白…。