魔法使いの約束/因縁関連の雑誌感想

spoon.2Di vol.64とアニメージュ2021年9月号。
Twitterで書いていた感想をちょっと直したり足したりしたやつです。
読んだタイミングは2021年12月末くらい。2周年キャンペーンでメインストーリーを一気読みした直後です。
オーエンと因縁のふたりが気になった人にはこれ!らしいし、メインライターの都志見先生の文章と聞いて買いました。

spoon.2Di vol.64 書き下ろし北の国スペシャルストーリー

『北の国』とあるけれど『オーエンが大いなる厄災との戦いのために集まった北の国の面々と再会したタイミングで、カインとの出会いを回想しているお話』なので、実質オーエンの話というか、オーエンにとってのカインとの出会いの話というか。

このお話のオーエン、残酷で美しくて怖くてゾクゾクした…。
交換した左目という宝物を世界中に見せびらかしたくて、本当は「ねえ見て、ねえ、もっと聞いて」と大声をあげたくてたまらない姿は夢見る子どものような愛らしさがあるのに、カインが騎士団長を辞めさせられたと聞いてショックを受ける理由が『自分が秘密を暴いたせいでカインが騎士団長を辞めさせられたから』という自省と後悔ではなく『カインが辞めさせられたらこの左目は騎士様のものではなくなってしまう』という憤りと落胆なのが…。

ひ、ひえ~~~!!!?!?この、自分がカインにしたことに罪悪感を覚える必要も感じていなければ、『騎士様との運命の出会い』に夢中だけど騎士様の事情はどうでもいいという…こわ、怖い!!!!!

『騎士団長ではなくなっても、どこでなにをしていても、カインの在り方は騎士様でしかない』というオーエンの結論そのものはカインの誠実な生き方をこれ以上なく評価しているのに、オーエンの内心を覗き見て読んでいるこちらには「でもこうなった原因は…」という当然の引っ掛かりがずっとあって、でもオーエンにとっては存在しないものなので、本当に一切触れられなかったのが…すごくゾッとしました…。
 

でも対峙したカインの瞳を回想しての

夜空にあふれる大きな月の光よりも、視界いっぱいにあふれた、蜂蜜色をした強い瞳の輝き……。

この表現と、挿絵が『空高くにある月と目玉に手をのばす絵』なのは本当に美しい。どちらも同じ色なのにね…。
このオーエンの視点からのカインの目玉=月の表現、めちゃめちゃに好き。月や太陽に手を伸ばすのは届かないものに手を伸ばさずにいられない人間のサガで、私はその感情が大好きだから。

アニメージュ2021年9月号 Special Talk カイン&オーエン

spoon.2Di→アニメージュの順番で続けて読んだので、夢見る子どもの純粋さと残酷さのオーエンから非常に現実的で冷静な成人男性のカインの温度差で風邪ひくかと思った…。

オーエンが目玉のこともアーサーのことも持ち出して騎士様を嫌な気持ちにさせようと頑張っているのに、カインは過去自らが部下たちにそう命じてきたように今は自分もオーエンと仲間になるべきだと、大いなる厄災を倒すまで目玉を奪われた過去にこだわって意固地になったりはしないと。
将来的にはオーエンに勝って目玉を取り戻すつもりとはいえ、被害者でありながらごく冷静に、より全体にとって優先度の高い問題のほうに向き合っている。

いやごくごく普通以下の感覚をもって生きている人間からしたら、こっちはこっちでカインが立派すぎて怖いんですけど!!!??!!!?
個より全、を個が自分自身でも当たり前のように計算して私情を律せるところ…さっき読んだSSの自分の感情や欲望すら認識できないオーエンと違いすぎるし、これはこれで怖い。

オーエン「おまえって退屈で馬鹿みたい。」
カイン「俺はそうは思わない。」

ここ、あまりにも好きすぎる。オーエンとのレスバに強い。

オーエン「へえ、いろいろあったんだ。まだ二十年と少ししか生きてないのに。」
カイン「他のやつの人生もこんな感じだと思うけどな。オーエンは?……子供の頃、どんな風に暮らしてた?」

ここにお互いの感覚やこれまでの環境と人生の決定的な違い、相互不理解の6割くらいが詰まっていた気がして大はしゃぎしてしまった。
人間として生きてきたカインにとって二十年は人生の指針を決定するまでにじゅうぶんな時間で、千年以上ひとりで生きてきたオーエンにとってはぼんやりしていたら過ぎていた時間だっただろうなと。そして過去の記憶を持たないオーエンは、自身の子供の頃を問われても答えを持たない。
 

因縁のふたりの好きなところ。初見はオーエンがカインにヤバ粘着しているところだったけれど、こうして濃度の高いものを接種すると、オーエンがどれだけ一生懸命カインを傷付けようとしても、カインの本質や誠実で気高い生き方を歪めたり影響を与えることすらできていないように見えて、そこが好きだな…と思いました。
フィクションじゃないとありえないようなまぶしい存在と、それを見てひとりで紆余曲折しているようなどこか俗っぽい存在の関係構図と感情、好きなので…。